目立った予定のない休日は、昼食も手早く済ませてしまいがちだ。
そんな日の真ん中に、茹でたてのそばを一緒に味わう時間を置いてみる。遠くへ出かけなくても、昼が少し待ち遠しくなる。
予定のない昼が、茹でたてを待つ時間に変わる

「今日のお昼、そばにしようか」
そう決まると、それぞれに過ごしていた休日に、昼食を楽しみに待つ時間が生まれる。
昼になったら食卓に集まる。それまでは本を読んでも、洗濯物を片づけてもいい。時計を気にするほどではないけれど、頭の片隅には茹でたてのそば。
食べる少し前になったら、鍋に湯を沸かし、つゆや薬味を食卓へ並べていく。手の込んだ料理ではないから、準備に追われることもない。
「そろそろ茹でるよ」
「じゃあ、器を出しておくね」
短い声を掛け合いながら、二人の動きが昼食へ向かってそろっていく。何もなかった一日の中に、二人で楽しみにできる時間ができている。
鍋から湯気が立ち、食卓の用意が整う。もうすぐ食べられるという、ささやかな高揚。
香りと食感の違いが、二人の会話を生む

茹で上がったそばを冷たい水で締め、間を置かずに食卓へ運ぶ。箸でひと口分を取り、つゆに浸して味わうと、最初に感じるものは二人で少し違う。
「香りがちゃんと残っているね」
「私は、この弾力が好きかも」
本生二八そばのやわらかな香りや、ほどよく歯に返る食感。乾麺を食べるときには意識しなかった違いが、茹でたてでは輪郭を持って感じられる。
どちらの感想が正しいかを決める必要はない。片方が口にした言葉をきっかけに、もう一度そばを味わってみると、さっきとは別の部分に気づくこともある。
「たしかに、噛んだあとに香るかも」
食卓に特別な話題を用意しなくても、目の前のものを一緒に味わえば会話は生まれる。
蕎麦がおいしいうちに食べようとする間は、テレビやスマートフォンへ伸びる手も自然と止まる。今は、この一杯が昼の中心。
いつもの昼食にも、休日の楽しみが見えてくる

食べ終えた食卓には、少し残った薬味と空になった器。用意したのは、そばとつゆ、わずかな薬味だけだった。それでも食後には、ただ昼食を済ませたときとは違う満足感が残っている。
茹で上がりを待ったこと。そろって箸を取ったこと。香りや食感について、思ったままを話したこと。どれも小さな出来事だが、予定のなかった一日の中では、きちんと記憶に残る。
休日を楽しむには、外へ出かける予定が必要だと思っていた。けれど、いつもの食卓にも、まだ楽しめる余地がある。
食べるものだけでなく、できたてを誰と囲むか。そこを少し変えるだけで、何気ない昼食は休日らしい時間になる。食後はまた、それぞれの過ごし方へ。静かな午後の始まりだ。
次の予定のない休日は、昼食の時間を決めて、家族や夫婦で茹でたてのそばを囲んでみませんか。