休日の夕食くらい、作る人も食べる人も同じペースでいたい。
そんな日は、鍋のそばにむき身のカニを並べて、食べたい人が自分の分をその都度しゃぶしゃぶする。料理を完成させてから席につくのではなく、食卓の上で少しずつ仕上げていく夕食だ。
食べたい人から、自分のカニを鍋にくぐらせる

湯気の立つ鍋の横に、食べる分のカニを置く。
「先に食べていい?」
そう言って一人が手を伸ばし、脚肉を鍋へ。少し待って引き上げると、それを見ていたもう一人も自分の分を取る。
全員分をまとめて鍋に入れるわけではないから、誰かが「そろそろ食べて」と声をかける必要もない。食べたい人が、食べたいときに一つずつ。
むき身のカニなら、鍋から引き上げたらそのまま自分の皿へ。殻を外すために手を止めることもなく、次の人も自然にカニへ手を伸ばす。
誰かが取り分けるのを待つのではなく、自分で一口を仕上げる。その気楽さが、休日の食卓によく似合う。
火の通し方を変えると、それぞれの好みが見えてくる

二巡目あたりから、鍋に入れている時間に少しずつ違いが出てくる。
「私はこれくらいが好き」
「もう少し待ちたいな」
隣の人が早めに引き上げるのを見て、今度は自分も少し短めにしてみる。反対に、しっかり火を通した一口を気に入って、次も同じくらい待つ人もいる。
同じ鍋を囲んでいても、仕上がりは一人ずつ違う。
それを比べるのも、この食べ方の面白いところだ。
「そっちはどうだった?」
そんなひと言から、それまで何となく食べていた好みが言葉になる。誰かの正解に合わせるのではなく、自分の好きなところを探しながら食べていく。
カニしゃぶというと少し構えてしまいそうなのに、やっていることは案外自由だ。
作る人も一緒に座って、最後までゆっくり食べられる

食事が進んでも、鍋の前に付ききりになる人はいない。
カニが欲しくなった人は自分で手を伸ばし、鍋へ入れる。その間に別の人が話し始めれば、箸を止めて聞いていてもいい。
食べる速さがそろっていなくても困らない。
「次、もう一つ食べようかな」
そんな声が出るころには、最初に並べたカニもだいぶ少なくなっている。それでも食卓の空気はせわしなくならず、話しながらもう一口、という時間が続いていく。
せっかく少し特別なものを食べるなら、用意した人まで途中で席を立ち続けるより、同じところに座っていたい。
気づけば、用意した人も同じ席で箸を動かし、話の続きを聞いている。自分の分は自分でしゃぶしゃぶする。それだけで、最後までみんなが食卓にいられる。
次の休日は、食べたい人から一つずつ、自分の好きな加減でしゃぶしゃぶしてみたい。鍋の横にそのまま並べられるむき身のカニなら、どんなものがあるだろう。